特集1

源 = みなもと

日本は世界でもっとも古い国のひとつとして、長きにわたり豊かで厳しい自然に囲まれながら文化を育んできました。江戸時代の鎖国では、250 年間も戦争のない平安な時を過ごし、その後の明治の近代化と戦後の復興を、世界が驚くほどの速さで成し遂げました。そんな、独特な文化と歴史を持つ日本が生みだす「モノづくり」の源とは?


As one of the oldest countries on earth, Japan has nurtured its culture and tradition since antiquity. During the Edo Period, Japan enjoyed the longest sustained peace in its history as the country adopted a national isolation policy, during the Meiji Period it underwent modernization, and after the Second World War Japan restored its economy at breathtaking speed. So what is the origin of this “monozukuri” (production technology) that was born in Japan, a country with such a unique culture and history?

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心と技をつなぐ Unequalled Heritage of Spirit and Skills

展示協力:神宮司廳

Exhibition Cooperator: Jingu Shicho (Jingu Administration)

継承し、常に新しい

1300 年もの昔から、絶えることなく続いてきた伊勢神宮の式年遷宮。

20 年に1 度、神様のお宮と御装束神宝を新しくつくり替える営みとおまつりは、世界に類を見ない、世代を超えた心と技術の継承を実現してきました。

神様のために最高のものをつくり捧げる式年遷宮には、神や自然を生命あるものとして大事に扱いながら調和をはかり、技を磨き続け、世界に誇る日本独自の精神、知恵、創造性を持続していく源があります。

Inherited Over Time, Yet Always New

Shikinen Sengu continually, for 1,300 years the Ise Grand Shrine has been periodically reconstructed and transferred from one site to a neighboring new one.

Every 20 years, the re-creation and transfer of the deity’s shrine and sacred apparel and treasures and the accompanying ceremony constitute the transmission of a spiritual and technological heritage that transcends generations

and is unequalled in the world. The goal of the re-creation is to produce for the deity the very best things possible.

The undertaking, therefore, regards the divine being and nature as endowed with life, stresses harmony and the continued polishing of technical skills, and serves as a source of the perpetuation of world-class, characteristically Japanese spirit, wisdom, and creativity.

伊勢神宮式年遷宮

伊勢神宮式年遷宮

神宮式年遷宮御造営に使用する大工道具

長台大鉋 内丸鉋/反り台鉋/際鉋/外丸鉋 曲がり鑿/丸鑿/繰り子錐/玄能
式年遷宮一覧

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もったいない Mottainai (Desire to avoid wastefulness)

モノにも命がある

神仏習合的な日本の宗教観は、「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」、生命のある動物や草木だけでなく、命を持たない石や物も「生き物」として、自分たちと同等であると教えてきました。自然からの恵みである、あらゆる「モノ」を大切にし、長く、無駄なく、最後まで使い切る「もったいない」という日本独特の考え方。

その精神は、お茶碗に米粒を残さないという日常的な行為から、省エネルギー設計や経営の思想にまでおよびます。

江戸時代には、割れた茶碗を繋いで直す「きんつぎ」や、古い布を裂いて最後まで使い切る「さきおり」など、世界でも例のない徹底したリユースの技術や文化が生まれています。

Even Objects Have Life

The Japanese religious perspective,based on the syncretization of Shintoand Buddhism, is based on the ideathat all aspects of nature are holy. This does not only mean animals and plants that have life; the Japanese have been taught to value rocks and other lifeless objects as “living things,” and to place them on the same standing as human beings. One way of thinking that is highly characteristic of Japan is the spirit of “mottainai” or “avoiding wastefulness”? a philosophy which values all things that come to us through the bounty of nature and seeks to use them as long as possible until they

wear out, wasting nothing. This spirit shows itself in everything from the everyday Japanese habit of taking care not to leave a single grain of rice in the bowl, to energy-saving designs and management philosophies. The Edo Period saw the birth of a number of technologies and cultures which sought to reuse everything with a thoroughness that is unprecedented anywhere else in the world, including “kintsugi” (the art of repairing broken pottery) and “sakiori” (in which old clothing is torn into strips in order to get all possible use out of it).

金継

壊れた物を捨ててしまうのではなく、再生して利用する―それが「金継」です。これは、大切にしてきた器を独特の美意識で、価値を損なわずに再生する文化です。接着に用いるのは人体に害がない漆。「japan」と呼ばれるほど優れた日本の漆技術を使い、「食器」としての機能も失うことなくいつまでも大事にするところに、日本ならではの知恵があります。

金継画像1 金継画像1
裂織画像

裂織

使い続けてボロボロになった着物や布を、細かく裂いて糸にし、ふたたび布に織り上げたものが「裂織」です。さまざまな布が混じり合い、また地域や風土を反映し、素朴でありながら、独特の美しさも感じさせます。最後まで物を捨てずに再生し、利用しようとした人々、社会が生み出した技と美です。

展示協力:佐藤利夫

Exhibition cooperation: Toshio Sato

自然と生きる Living With Nature

サスティナブルなモノづくり

日本は、さまざまな物資を海外から輸入する一方で、世界でもまれにみる豊かな自然の資源に恵まれた国です。

2000 年以上にわたってモノづくりが発展した背景には、自然という「相手」を理解し、守りながらつくり続ける仕組みがありました。

国の産業を支える根幹ともいえる「鉄」づくりの原点「たたら製鉄」に、このサスティナブルなシステムをみることができます。

Sustainability

Although an importer of many resources from overseas, Japan is in fact blessed with the resources of a natural environment in rare abundance. Spanning a background of more than two millennia of evolving craftsmanship, the Japanese people have developed a system that

consistently understands, makes good use of, and protects nature as a partner. The “Tatara Iron Making” - the origin of iron production, said to be a main resource of national industries, demonstrates this kind of sustainable system.

サスティナブルなモノづくり

たたら製鉄自然の恵みで鉄をつくる

古来より続く「鉄」をつくる技術、「たたら製鉄」。森から得られる砂鉄、木炭、 粘土、そして風という自然の素材だけを使う製鉄技術です。世界でもっとも古い方法の一つでありながら、鉄の純度99%以上という現代の技術でも難しい高品質を保っています。この技術が、日本刀のような最高の刃物から、茶釜などの生活の道具にいたるまで、モノづくりの文化を育み、産業を発展させ、人々の生活を豊かにしてきました。

湿潤な気候のおかげで約30 年という短時間でよみがえる森と、その森から得られる素材のみを使うシステムにより、長きにわたり山陰地域で鉄をつくることを可能にしました。「たたら製鉄」は、日本における「自然と生きる」モノづくりの伝統であり、シンボルともいえる存在です。

展示協力:奥出雲町/ 奥出雲たたらと刀剣館/ 公益財団法人日本美術刀剣保存協会

Exhibition cooperation: Okuizumo Town / Okuizumo Tatara and Sword Museum

The Society for Preservation of Japanese Art Swords

玉鋼

たたら製鉄によって生み出される、不純物がきわめて少ないケラの中から選別されたもっとも品質の高い部分。現代の技術でも制作できない、純度99 パーセント以上の最高の品質を持つ鋼です。軟らかく、伸びやすく、何度も折り返して作る刃物に向いた性質をもち、そのまま日本刀の材料となります。

玉鋼画像

「たたら製鉄」の材料 - 釜土・たたら炭・真砂砂鉄・ケラ-

たたら鉄は、古代から受け継がれた、自然の恵みと人の技が一体となった、現存する貴重な製鉄方法で、ご神宝、日本刀や美術品の材料として生きています。すべて自然から得られる材料で作られます。森の釜土で作られた窯を用い、ふいごで風を送り、森から採取した真砂砂鉄と、森の木で作られた「たたら木炭」で熱して鉄を作ります。ケラは、たたら鋼のもとになる塊。釜から出て、いくつにも砕かれ、ほぼそのまま日本刀として使える1 級A と2 級A、2 次加工が必要な銑などに選別されます。

「たたら製鉄」の材料
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拵こしらえ「黒くろうるしぬりうちかたなこしらえ漆塗打刀拵」

鍔:鍔工 成木一成、鞘の塗り:漆芸家 小山光秀、縁:白銀師 中田育男

監修:柄巻師 久保純一

Ornamentation “Black lacquer uchigatana-style ornamentation”Created by Kazunari Naruki, Mitsuhide Koyama, Ikuo Nakata, Supervisor Junichi Kubo

日本刀の拵は、機能美に加え、きわめて高い装飾美を有しています。絵柄にはさまざまな自然のモチーフや、日本の武道にまつわる物語が描かれ、図法や手法としては、漆、蒔絵などの伝統的な工芸技術が多く用いられ、日本の美術品として高い価値をもちます。本作品は、「天正拵(てんしょうこしらえ)」と呼ばれる様式で、柄の鮫かわを黒漆にて処理しています。鍔(つば)は龍の図、縁(ふち)は赤銅(しゃくどう)に金小縁(きんこべり)です。柄巻き(つかまき)は最上の鹿革をつまみ巻きし、下緒(さげお)も同色の共下緒(ともさげお)にしています。

拵こしらえ「黒くろうるしぬりうちかたなこしらえ漆塗打刀拵」
太刀

太刀

銘 表:播磨國住人 髙見國一作之 

  裏:平成辛卯年 雪中松柏 敬天愛人

Sword Created by Japanese Sword Smith Kuniichi Takami

玉鋼を用いて、現代の刀工により鍛錬された日本刀。何度も折り返しながら鍛錬し、切れ味、強さ、柔軟さを生み出す日本刀は、純度の高い「たたら製鉄」による玉鋼でなければ実現できません。本作品は、日刀保たたらで村下養成員として経験をつみ、和鐵にも造詣が深い刀工により制作されました。腰反りの堂々たる太刀姿に、高低のある華やかな大丁子乱れの刃文を焼いた守刀であり、茎(なかご)には依頼主の思いである「敬天愛人」が刻まれています。

和銑流線文釜

和銑流線文釜 角谷勇圭作

Japanese iron kettle with flowing line design Created by Yukei Kakutani

明治初期まで全国で盛んに行われた「たたら製鉄」により、刃物をはじめ、鍬などの農具から釜や鍋などの日用品に至るまで、実にさまざまな鉄製品が作られ、鉄は庶民にとって身近な素材でした。現在、たたら鉄は日本刀だけでなく、神宝や美術的な価値をもつ釜や鏡などの材料ともなっています。貴重な鉄による現在の茶釜に、当時の日常生活における豊かな鉄文化の名残りが受け継がれています。

おもてなし

和をもって貴しとなす

気配り、気遣い、調和を重んじる和の心。相手のことをよく知り、何が必要かを考え、その気持ちをかたちにする「おもてなし」の心は、日本独特の価値観です。

江戸時代には、「主人」も「客」も同等であるという精神をもつ茶道の発展により、より洗練された「おもてなし」のかたちが、生活の仕方や人との接し方はもちろん、あらゆる仕事の考え方のなかに根づくようになりました。

Valuing Harmony Above All

This peaceful spirit stresses consideration,solicitude, and harmony. The core of “omotenashi” (hospitality)?understanding the other person well, considering what he or she needs, and putting such feelings into tangible form?is a characteristically Japanese value which is rooted in Japanese ways of living and relating to other people and to all kinds

of work attitudes. The Edo Period saw the development of the tea ceremony with its spirit of placing “host” and “guest” on an equal footing; this led to a more sophisticated form of “omotenashi” taking root in the Japanese way of life?not only in ways of living and interacting with people, but also in the approach to all kinds of tasks.

黒織部茶碗

瀧口喜兵爾作

Black Oribe tea bowl Created by Heiji Takiguchi

左右非対称の食器は日本では珍しくありませんが、他国にはほとんど存在しません。茶道の教えは、主と客が対等に向き合い、相手を知り、違いを受け入れ、思いやり、調和することを楽しむ、和をもって貴しとなす、おもてなしの心により育まれ、洗練されてきました。大胆なデザインとして江戸時代に登場した織部茶碗は、自然の中の左右非対称や、未完成のような物足りなさに美を見出しました。一期一会を楽しむ仕掛けを生み、口当たりがよく持ちやすい機能性も有した、まさに日本のおもてなしの美意識が形になったものといえます。

黒織部茶碗

こだわり

技を極める

自分の腕と仕事に誇りをもち、つねに技の向上のために努力し続ける。そのような「職人」の精神は、日本のモノづくりの質を語るうえでかかせません。限界を定めず、素材、道具を知りつくし、腕を極めた「技」は、先端技術ではいまだ追いつけない高度な品質を生みだしています。

Perfecting Skills

Any discussion of Japanese craftwork quality must include the sense of pride in one’s abilities and work, and tenacity to improve one’s skills that constitute the spirit of the craftsman. Technical skill

that sets no bounds, that comprehends materials and tools, and that strives to improve abilities results in high quality that advanced technology cannot match or surpass.

自動車用ステアリング

Perfecting Skills

竹の芯の部分だけを厚さ4mm の短冊状に加工し、温度や湿度の変化を受けないように処理したあと、11枚を重ね合わせて半円形に曲げます。その後、手作業で磨き、塗装します。運転中、常に人の手が触れる場所だからこそ、手間をかけた徹底的なこだわりがあります。日本の伝統的な素材である竹をよく知る職人の手だからこそ、究極の手触りが実現するのです。竹の生長は1日あたり約1m。通常、ハンドルに使用する木材では50 ~ 60 年かかるのに比べて10 倍以上も早いため、「サスティナブルな素材」として注目が集まっています。それをステアリングの部材として使う技術も、日本が極めた技のひとつです。

株式会社ミロクテクノウッド

株式会社東海理化電機製作所

高知県工業技術センター

Exhibition cooperation:

MIROKU TECHNO WOOD Co., Ltd.,

TOKAI RIKA CO., LTD.,

Kochi Prefectural Industrial Technology Center

自動車用ステアリング

マホガニーバイク

マホガニーバイク

木を知る。相手を知る。組木で木材を頑丈に組み合わせる技術など、非常に優れた木工技術を日本は古来より培ってきました。材料と道具を知りつくしているからこそ、極められる技があります。木造船をつくる技術もそのひとつ。荒波にも耐える頑丈さをもちながら、ものすごく軽い船を作ることができます。極めたその技から、世界で唯一の自転車が生まれました。炭素繊維製の自転車よりも軽いだけでなく、車体がしなることで漕ぐ力が伝わりやすく、スピードも出るのです。美しさと実用性を兼ね備えた製品が、木から生まれています。

SANONMAGIC